背中漏れは突然に
穏やかな午後だった。授乳を終えた妻から息子を受け取り、母乳に引き続きミルクを与える。我が家では母乳とミルクを混合で、順番に与えるようにしている。
最初の内は慣れない育児に翻弄され、慌ただしい日々を過ごしていたが、一ヶ月半も経つと息子のいる生活にも慣れてくる。妻にも私にも余裕と言うものが生まれ、最近はミルクを与えながらAmazonプライムやYouTubeを見たりもしている。
しかし、穏やかに過ぎて行く時間は、唐突に解き放たれる息子のウンチにより状況が一変する。
ボンッ。
談笑を遮る様に不意に鳴り響く炸裂音。息子のお尻を支える掌に感じた衝撃。少し遅れて鼻腔に届く異臭。ウンチだ。私と妻は顔を見合わせる。音と衝撃から特大のブツが解き放たれた事は想像にかたくない。
嫌な予感がした。しかし、特大のブツを解き放ったであろう息子は意に介したそぶりもなく、ミルクをグビグビと飲み続けている。動けない私の代わりに妻が息子の背中の方を確認する。漏れてる...。妻がボソリと呟いた。
「そんなバカな」と笑い、背中の方に手を回す。ぬちゃりと濡れた感触。指先の匂いを恐る恐る嗅いでみる。うん。臭い。これは背中漏れだ。
衝撃だったのだけれど、赤ちゃんのウンチは結構な頻度で背中から漏れ出す。息子が産まれる前から何となく、知識としてそう言う事があるよって事は知っていたが、実際に育児をしていると思っている以上の頻度で背中からウンチが漏れ出てしまう。
赤ちゃんのウンチはかなり緩めだ。体を倒す様に横向きに抱いている時は、確かに背中から溢れるみたいに漏れちゃう事もあるかなと思う。
ただ納得できないのは息子の背中漏れは圧倒的に「縦抱き」している時に発生しやすい事だ。
赤ちゃんの頭が上になるように縦に抱いているので、肛門はもちろん下向きになっている。その体勢でも背中からウンチが漏れてくるとはそれすなわち、息子のウンチはおよそ重力を無視してオムツの背の部分を駆け上るほどの爆発力があると言うことに他ならない。
そしてこの様なビックバンが起きた際、被害は背中漏れだけではすまない。オムツの収容限界を超えたビックバンウンチは足の付け根からも漏れ出す。
ハザードマップ的に被害がズボンだけで済んだら良い方。ズボンはまだ良い。脱いで洗えば事足りる。恐る恐る息子を持ち上げてみると案の定、ズボンの被害は壊滅的。そしてその下にあるソファーも既に息をしていなかった。
ソファァァァァ...！
なんだろう。ソファーって割と「出来れば汚しなくない家具」の部類にはいるのかなと思う。洗うのとか面倒くさそうだし。だからソファー買う時についつい店員さんに勧められるままにお高い値段の「ソファークリーナー」とか買っちゃう訳で。
汚れを弾く！って売り文句だった気がしたけどガッツリウンチ染み込んでた。ソファークリーナーではうちの息子のウンチの侵略は防げませんでしたってあの時「絶対買った方が良いですよ！」ってソファークリーナーを激推してきた店員さんに教えてあげたい。ソファークリーナーではウンチには勝てない。
そんな壊滅的被害をもたらした当の本人はと言うと私の腕の中で満足気にウトウトしてる。ミルクも飲んで、出すもん出して、一片の悔いなしと言った面持ち。思わず笑わずにはいられなかった。
ポジティブに「ソファーを洗う機会を息子がくれた」と考える事にした。普段なかなか洗うまではしないソファーを丸っと洗う機会を頂けるなんて！息子には感謝感謝だなぁ。白目。
ソファーを洗うのはそれなりに骨が折れた。二重になっていたカバーを丸洗いし、その下にあるクッション材まで染み込んだウンチを丹念に拭きあげて、半日ほど天日干しする。
その翌日の事だった。
丸洗いして綺麗さっぱりとしたソファーに腰掛け、Amazonプライムでダイの大冒険を見ていると、息子がホギャーと泣き出した。
妻が息子を抱き上げ、縦に座らせた状態で授乳をする。私はその様子を横目に見ながら、ミルクの準備をしていると
ボンッ。
昨日もどこかで聞いた様な破裂音がリビングに響き、妻が「あぁ...」と力なくうめいた。恐る恐る息子を抱き上げると妻のズボンもソファーも既に息をしていなかった。
例によって特大のブツを解き放ったであろう息子は意に介したそぶりもなく、おっぱいをチューチューと吸い続けている。ウンチにまみれながら、妻と顔を見合わせて笑うしかなかった。ウフフフ。皆様も背中漏れにはご注意くださいませ。
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